今回は、「映画にしかなかった箇所」、「原作の方が詳しい箇所」について、書いていきたいと思います。
ちなみに、原作は「キノの旅 5巻」の第10話。
映画と同じタイトル「病気の国 -For You-」です。
ストーリーと、全体の印象は、ほぼ同じ内容となっています。
これまで書いてきたように、コール中尉とのシーン、冒頭・ラストには大きな違いがありますが、話は変わっていません。
(地下室・冒頭・ラストについては、こちら。 ↓ )
(original photo: Free-Photos)
映画にしかなかった箇所
演出
「それまでのキノとエルメスの旅」について知らなくても、今回のストーリーを楽しめるように、工夫されていました。
入国前後の数分で、キノについて、自然と分かるような演出です。
本当は女の子であることや、
国々を巡っていること、
エルメスとの付き合いが長く、お互いに信頼しあっていることなど。
予備知識がなくても、映画中、「キノと、その生活」ばかりが気にならないような配慮がありました。
旅の目的
入国後2日目に、今回の国を、キノとエルメスが観光する様子が描かれていました。
「シティの果て」まで行ってみて、「かきわり(書割)」という方法が使われていると、キノが説明したり。
大道具の背景のように、シティを囲む壁に絵が描かれていたのです。
また、その付近の建物は、遠近法を利用して、街に奥行きがあるように見せる作りになっていました。
このような国が実際にあったら、本当にそういう造りをしているかもしれないな、と興味深く感じました。
また、シティでは、「消毒液みたいな、ツンとしたにおい」がすると、キノが言う箇所も。
国全体が、病院のような感じでしょうか。
映像からは、視覚的な情報しか得られないので、嗅覚の情報も加わると、臨場感がありますね。
そんな国の中で、キノは常に監視カメラで見張られていることに、なんとなく違和感を持っている、というのも、原作には書かれていないことです。
このように、キノの旅の目的である、訪れた国についての「キノによる気付き」は、映画で膨らませてありました。
映画を観ている側も、未知の国を旅しているような気持ちにさせてくれますね。
原作の方が詳しい箇所
開拓団
開拓団についてですが、映画では、「開拓団の制度自体が、人体実験のため」とも考えられるような表現でした。
原作を読むと、「シティの外で暮らす方法を模索していくための開拓団」というのが、元々あったことが分かります。
(病気の治療法を見つけるための)人体実験用に集められた人たちは、「特別開拓団」として区別されていることも。
また、この特別開拓団が、「本当に実験に利用されるかどうかは、直前まで確定していなかった」ということも詳しく書かれていて、コール中尉の苦悩がより理解できます。
映画の、カントリーを監視する事務所のシーンで、スクリーンには、穏やかに暮らしている家族が映し出されていました。
彼らは、ローグたちのように扱われることはない、「本当の開拓団だった」ということです。
イナーシャの魅力
この映画で印象深かったのは、イナーシャの「けなげさ」ですよね。
原作では、そんなイナーシャのひたむきさが、もっと感じられるようになっています。
キノとの会話が、映画よりも多ので。
これまで書いてきたように、
コール中尉は、イナーシャのために偽りの手紙を送り続けながら悩み、
キノは、自分の「旅の原則」を破ってまで、彼女の願いをかなえようとしました。
彼女が一生懸命で素敵な子だから、彼女を知った人は、夢を応援したくなってしまう。
そんなイナーシャの魅力が、この物語を動かしていることが、原作では、文章で表現されていると思います。
映画では、彼女の動きやしぐさ、息づかいも映像で描写されているので、十分伝わってきましたが。
鳥のブローチ
映画と原作では、作られた鳥の様子が違います。
原作では、短い「金色の毛」がはり付けられていました。
イナーシャの髪の毛ですね。
そして、原作の最後のページには、そのブローチのイラストがあります。
それが、とってもかわいらしいのです!!
映画では、とてもシンプルな作りになっていましたが、私は原作の「鳥のブローチ」の方が好きです。
この物語では、「鳥」が象徴的に出てきます。
「好きな所に自由に行けること」、それから、「そのように旅しているキノ」を表していると思うのですが…
この鳥のブローチは、イナーシャが鳥になったかのような姿なのです。
彼女はブローチに、「自分の心をローグの元に届ける」という気持ちを込めた、ということなのかもしれません。
ラストシーンの手紙を読んだ後、イナーシャが泣いてしまったのは、「この願いがかなったと感じたから」と、解釈することもできます。
イナーシャの純真さが伝わってくる、素敵なイラストは必見ですね!
(ラストの手紙については、こちらに書きました。 ↓ )
最後に・・・私の好きなシーン
私は特に、イナーシャがローグと初めて会った時の様子を、演じるように話すシーンに惹かれました。
彼女は、その時のことを、自分の頭の中で何回も繰り返しているんじゃないかな、と、思わせるんです。
だから、ふたりのすべての「会話と動き」を、そのまま再現できるし、
「何も変えずに覚えていたい」という、強い気持ちがあるのではないか、と感じます。
ローグとの出会いが、本当にうれしくて、大切な思い出となっていることが、伝わるシーンでした。
結局、イナーシャの夢はかなわなかったけれど、そんな素敵な思い出があること自体は、かけがえのないことなのです。
それが救いになっているのかもしれません。
ちなみにこの箇所、映画と原作は、ほぼ同じです。
(「病気の国」の原作は、この本の中です。 ↓ )