イナーシャには、両親に内緒にしていることがありました。
しかもそれは、彼女にとって一番大切なこと。
この点についても、何か重要な意味があるのかな?と、気になりました。
(映画・原作共に、理由は示されていなかったので。)
今回は、秘密について書いていきます。
(original photo: Bich Tran)
カントリーへの憧れ
秘密にしていたことの1つは、「カントリーに行きたい」という夢ですね。
原作では、カントリーへの憧れを、「むしろ両親の方が、キノに熱く語っていた」との記述がありました。
それなのに、同席していたイナーシャは、その話題に無関心を装っていたのです。
イナーシャには、そのような「振り」をしなくてはいけない理由があった、ということでしょうか。
イナーシャの計画
開拓団としての移住は、家族単位です。
そしてイナーシャは、「両親がホテルの仕事をやめてまで、カントリーに行くことを希望してはいない」と分かっています。
そういう訳で、イナーシャは、開拓団としてではなく、ひとりでカントリーに行く必要があると感じていたはず。
原作では、病気が治った時の話として、キノに、
「カントリーへ行く許可を得るために、一生懸命勉強と訓練に励むことでしょう」
と言っています。
開拓団としてではなく、彼らの警護を務める、軍の特殊部隊員として、カントリーに行き、ローグと再会するつもり、と言っているようにも聞こえます。
それは将来、「ローグのそばで暮らすために」なんですけど。
というのも、原作では、コール中尉が、イナーシャとローグの手紙を読み、
「(彼女の夢は)完治して少年と一緒にカントリーで住むことだった」
と話す箇所があるのです。
キノに対してイナーシャは、カントリーに行く目的を、「ローグにお礼を言うため」と話していましたが…
ローグに恋するイナーシャは、「一緒に住むにはどうしたらよいのか」と、相当考えていたと考えられます。
そして、その手段は限られている…
独身のままで行くとしたら、「特殊部隊員として」しかなさそうです。
しかし、自分の娘が軍隊に入ると言い出したら、優しい両親は、反対するかもしれません。
心配をかけることは確実です。
ホテルの仕事を捨てて、「一緒に開拓団になる」と言い出す可能性も。
それなので、計画の実現が近づくまで、黙っているつもりだったのではないか、と考えられます。
無関心を装っていたワケ
さらに、両親の前で、「興味がない様子でいた」のは、どうしてでしょうか。
カントリーに興味があると知られても、行こうと思っていることは、隠しておけるはず…
でもこれも、秘密を守るためなのかもしれません。
カントリーについて、イナーシャは両親よりも詳しいのです。
カントリーに関する情報には、人一倍敏感でしょうし。
さらには、実際にそこで暮らしている開拓団の1人と文通しているのですから。
それなので、カントリーについての話題にイナーシャが加わった場合、その知識がぽろりと表に出てしまう可能性があります。
そうしたら、「どうしてそんなことまで知っているんだ?」と不審がられ、自分の計画を話さなくてはならなくなるかもしれません。
さらに、秘密にしている文通のことも、知られてしまう可能性が…
できるだけ、この話題に触れない方が無難なので、関わらないようにしていた、ということだと思います。
ローグとの文通
では、そのもう1つの秘密である、ローグとの文通に関しては、どうでしょうか。
励ましあっている友達がいることを両親が知ったら、とても心強く感じて、むしろ喜んでくれるようなことなのですが…
10代前半の少女なので、「好きな男の子について、両親に話さない」というだけのことなのでしょうか?
しかしそれだけでは無いようです。
自分の計画を秘密にしておくためには、ローグのことも、秘密にしなくてはいけないのかもしれません。
文通が知られたら、手紙の内容を気にされ、何かの折に、見られてしまう可能性がありますから。
そもそも、入院している娘が、手紙のやりとりを、親に隠しておくこと自体、可能なのでしょうか?
この点は、ちょっと疑問に思いました。
(細かいことなのですが、非現実的だと、物語が嘘っぽくなってしまうので…)
原作では、封筒は2重になっていて、外側の封筒には、「病院名と病室番号しか書かれていない」となっていますが。
何らかの手続きで、封筒を見ただけでは、送り主が分からないようにはなっていますが。
それでも、定期的にどこかから、自分の子供の病室に手紙が届いたら、親は「誰からなのか?」と気にするはずです。
病院の関係者が、保護者に話さないはずがありませんし。
そもそも手紙は、どういう手続きで、外側の封筒に入れられたのでしょうか?
検閲(カントリーからの手紙には絶対に必要でしょう)の際に、入れられたのかな?と最初は考えていました。
外側の封筒に、「消毒・検査済み」の印をつけるため、ということなら分かりますが。
実際、印がつけられていたのは、内側の封筒となっているので、外側の封筒は必要が無いように感じられます。
もしかしたら、イナーシャにはシティに協力者がいて、ローグはカントリーからその人宛てに手紙を出し、それを白い封筒に包んで、協力者が病院に届けてくれている、ということかもしれません。
原作では、イナーシャは、「2年前に発病したこと」が書かれているので、その前からの友達が、自分からの手紙として、病院名と病室番号を書き込んで、病院に持ち込んでいるとしたら、可能なのかもしれないなと。
ちなみに映画では、封筒は2重にはなっていなくて、白い封筒から直接、手紙を出していました。
映画にするときに、省略されたようです。
その場合、この白い封筒には、第3者の名前が差出人として書かれていた、と考えてもよいかもしれません。
ローグと相談して、両親が知っている友達の名前を記すと決めていたとしたら、病院であやしまれずにすみますから。
うまく手はずを整えれば、相手を親に知られずに、入院している子供が文通を続けることも可能のようです。
秘密の行き着く先は・・・
このように、イナーシャは、秘密を守るために、自分なりに工夫をする必要があったということなのではないか、と考えられます。
そしてそのような行動が、夢をかなえようとする、彼女のひたむきさを、更に際立たせているのです。
(親まかせ、運まかせにする気が全くないという…)
そんなイナーシャを見守るコール中尉も、苦しみながら秘密を背負っていました。
国は、「特別開拓団」という秘密を抱えていました。
夢をかなえるための秘密。
相手を傷つけないための秘密。
病気の人を救うための秘密。
そして、秘密を守るための嘘。
そんな、人のためにつく嘘と秘密の多いお話なのです。
嘘をつきとおし、秘密を守り続けるのは、難しいことです。
だから、この物語の続きが一体どうなってしまうのか、気になるのかもしれません。
( ↓ ラストでイナーシャが受け取った手紙については、こちらに書きました。)